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子どもの社会問題
2025.09.12

「逆境的小児期体験(ACE)」が子どもと将来にもたらす影響と社会ができる支援

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子ども時代に受けた経験は、大人になってからの心や体の健康に大きな影響を与えるといわれています。虐待や家庭の不和など子どものときに体験した「逆境的小児期体験(ACE)」は、見えない傷となって人生に影を落とすことがあるのです。本記事では「逆境的小児期体験(ACE)」とは何か、その影響や社会ができる支援について考えていきます。

この記事を読むと分かること

逆境的小児期体験(ACE)とは?

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はじめに「逆境的小児期体験(ACE)」について、定義や原因となっているもの、また何を根拠としているのか解説していきます。

逆境的小児期体験(ACE)の定義と実態

「逆境的小児期体験」とは、子ども(18歳まで)のときに体験した辛い経験のことです。英語では「Adverse Childhood Experiences」と表記し、略して「ACE(エース)」とも言われています。子どもにとって逆境的小児期体験はトラウマとなり、心身の発達や将来に良くない影響を及ぼす可能性があります。

逆境的小児期体験は、大きく分けて「児童虐待」と「機能不全家族」の2つに分けられます。

児童虐待には主に、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトが該当します。たとえば、日常的に身体や言葉による暴力を振るわれていたり、養育を放棄(無関心、無視、食事が十分に与えらえない、病院に連れて行ってもらえない)されていたりといった体験です。

一方で機能不全家族とは、依存症(アルコール・薬物)、精神疾患(うつ病や統合失調症など)、家庭内暴力(DV)者、犯罪歴のある者などがいる家族のことを言います。これらの環境にいる子どもは情緒が不安定になりやすく、対人関係などのトラウマを抱えやすいといわれています。

逆境的小児期体験(ACE)スコア診断テスト

逆境的小児期体験を調べるために、「ACEスコア診断テスト」という調査があります。チェックポイントは、以下の10項目です。

・身体的虐待
・心理的虐待
・性的虐待
・身体的ネグレクト
・心理的ネグレクト
・親の離婚、別居
・家庭内暴力(DV)
・家族のアルコール、薬物依存
・家族の精神疾患・自殺未遂
・家族の服役

これら項目の中で該当するものをチェックし、当てはまる項目(スコア)が高いほど心身への影響が高いとされています。

4つ以上当てはまると、これらの体験が“0”の人に比べて依存症や虚血性心疾患、慢性気管支炎、脳卒中などさまざまな病を患う割合が高くなり、さらに社会生活に不適応となる可能性も高くなることが研究結果からわかっています。

またこのテストに関して、新たに貧困、差別、いじめ、地域の暴力、災害体験などを含めた「拡張ACE」の研究も進んでいます。

逆境的小児期体験(ACE)がもたらす影響

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逆境的小児期体験は子どもに過度なストレスを与え、将来にわたり心身に大きな影響を与えます。具体的に、どのようなことが起こり得るのかみていきましょう。

心理的健康への影響

逆境的小児期体験は、心理的にとても大きな苦痛をもたらします。PTSD(心的外傷後ストレス障害)、うつ病、不安障害、気分障害などの精神疾患を患うことが多く、将来的に治療や回復に長くかかるケースもあります。ほかにも、自己肯定感や自尊心の低下、愛着形成の不全など心に大きな傷を負うことになるのです。

こうした心理的健康への影響には、特に慎重にケアをしていく必要があります。

身体的健康への影響

逆境的小児期体験は、心への影響が大きいといわれていますが身体への影響もあり、不眠や慢性的な痛み、身体症状を伴うことがあります。これは、身体的虐待や極度のストレスが原因となることが多いです。

また、先に解説したように、ACEスコアが高ければ高いほど、慢性疾患や脳疾患、心疾患、そのほか脳の発達阻害などにつながりやすくなります。そのため、将来的な健康も見越した心の治療が求められます。

社会生活(学習・就労・人間関係など)への影響

社会生活への影響も少なくありません。

たとえば学習に身が入らなかったり、そもそも心身や家庭の事情で学習の機会が少なかったりすることで成績が振るわず、将来の就職や経済的にもうまくいかないケースにもつながります。

また、人間関係の面でも過去の体験から人への不信感や不安感を抱き、周りに頼ることが難しく、話を聞いてくれる人がいないという状況に陥りやすいことも特徴のひとつです。その結果、仕事や友人関係でストレスを抱えてしまい、私生活にも影響を及ぼす可能性があります。

逆境的小児期体験(ACE)に対してできるケアとは?

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逆境的小児期体験は、正しい治療・ケアを受ければ回復が可能です。ここではどのような方法があるのか、また留意すべき点や周囲ができることについて解説していきます。

どんなケアがある?

・安全な生活環境の提供

生活の基盤を整えることは子どもの成長に欠かせません。子どもが安心して生活できるよう、食事や人も含め日常生活に負荷のない環境を提供します。

・カウンセリング

カウンセリングは、子どもが抱えている不安や心の痛みを和らげたり、また自分の感情とうまく向き合うことができるようにしたりするためにあります。つらかった経験や今の気持ちを言葉にできるようになることで、安心感や自己肯定感を得て、逆境的小児期体験から立ち直るきっかけとなります。

・マインドフルネス

マインドフルネスとは、瞑想などを行って自分の状態や経験と向き合い、自己理解をすることです。マインドフルネスをすることで気持ちの整理ができ、ストレス軽減や自己認識能力の向上につながります。つまり、心の健康や生活の質を上げる助けとなり得るのです。

・薬物療法

子ども時代に受けた逆境的小児期体験による影響が成人後も強くある場合、ケアのひとつとして薬物療法も選択肢に入ります。抗うつ薬や抗不安薬などの服用によって、落ち着いた日常生活を送ることができる方もいます。

・家族療法

子どもを育てる親もまた、幼少期に逆境的小児期体験をしている場合や、そうでなくても養育に不安を抱えていることもあります。そのため、親も含めて心理的なケアや親子間の修復などからアプローチをしていくことも大切です。

ケアする人が留意すべきこと

逆境的小児期体験のケアをする際には、配慮すべき点がたくさんあります。その中でも大切なのが、ありのままを受け入れて否定しないことです。

逆境的小児期体験を経験している子どもは、自己肯定感が低く「自分なんか……」と感じている子もいます。怒りや悲しみの感情、問題行動などは子どもなりのSOSでもあるため、そんなサインを見逃さない観察力を持ち、どんな言葉や行動も受け止める姿勢が大切です。大声や威圧的な態度も気をつけなければなりません。

はじめはなかなか打ち解けてもらいにくいですが、一度した約束は必ず守る、常に一貫した対応(その時・話す側によって言っていることを変えない)を心掛け、焦らずゆっくりと信頼関係を築いていきましょう。

それから見落としがちですが、辛い体験やトラウマを抱えている子(人)に「がんばれ」など直接的な応援の言葉は危険です。「すでにがんばっている」「何をどうがんばればよいのかわからない」と思い、返って自身を追い込んでしまう可能性があるためです。常に味方であることを感じてもらえるよう、寄り添った言葉がけが求められます。

周囲ができる支援

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周囲ができる支援としては、身近なところで教育現場での理解とケア、安心できる環境や先生の存在が必要です。

近年は、多様な家庭環境や子どもの状況から「スクールカウンセラー」が在籍している小中学校も増えています。こうしたことからも、学校全体で理解を示し、見守りやケアを行うことの重要さがわかります。域での見守りやいざというときの相談窓口を把握しておくことも、大切なサポートとなり得ます。

また、地域での見守りやいざというときの相談窓口を把握しておくことも、大切なサポートとなり得ます。逆境的小児期体験をしている人は、自分から周囲へ頼ることが苦手な方が多いです。そのため、近くに自分を気にかけてくれている人や実際に助けになってくれる人がいると、心強いものです。子ども家庭庁による子どものための「相談窓口検索」や、各都道府県・行政の「子育て相談窓口(育児相談・家庭児童相談・虐待相談)」などを把握しておくと安心でしょう。

まとめ

逆境的小児期体験(ACE)は、子どもの心や体に深い影響を残します。しかし、周囲の理解や支援があれば、子どもたちは再び安心と希望を取り戻すことができます。ACEを正しく知ることは未来を担う世代を守るために欠かせない一歩です。大人一人ひとりが関心を持ち、今後支援の輪が広がっていけば幸いです。

【参照】
心理オフィスK|逆境的小児期体験がトラウマを与える?そのメカニズムを解説
メンタルケア研究室|ACE小児期の逆境的体験の3つのセルフチェックと回復ワーク
ACEラボ|ACEとは
厚生労働省|逆境的小児期体験が子どものこころの健康に及ぼす影響に関する研究
文部科学省|2 スクールカウンセラーについて
こども家庭庁 こども向けホームページ|相談窓口を探す

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