SIA の参加者は、児童養護施設で暮らす子どもや離島で暮らす子どもたちです。
彼らの多くは、普段慣れ親しんだ生活の場から離れる経験がほとんどなく、海外へ行くことはもちろん、飛行機に乗るのも初めてでした。
チェックインや保安検査場の列では緊張が張りつめていました。搭乗口が近づくほど、子どもたちの目の奥は不安そうな子、きらきらしている子、様々。私たちは出発直前の空港で短いオリエンテーションを行い、今、何を感じているのかを一人ひとり言葉にしました。
SIAプロジェクトリーダーからの一言は「違いを学びに行く旅」。その言葉を胸に、子どもたちはカナダ・トロントへ向けて旅を始めました。
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到着した翌日は、Child Youth and Advocacy Center BOOSTを訪問。
BOOSTはトロントで、虐待の報告があった場合、医療、警察、児童相談所を含む児童保護機関など多職種と連携し、調査やケアをできる限り子どもに負担をかけない形で進めています。
子どもが安心して話せるよう、室内は子どもたちの好きな色で彩られ、やわらかな雰囲気に包まれていました。
日本の児童保護機関との違いを肌で感じた子どもたち。その心の中には、すでに問いが芽生えはじめていました。
BOOSTの職員の方々と会議室でお話をしていると、ふと足元に一匹のセラピー犬が。途中で私たちの方へ歩み寄り、優しく挨拶をしてくれました。
緊張や難しいテーマに向き合って固くなっていた子どもたちの表情は一気に和らぎ、自然と笑顔がこぼれます。
お腹を見せてくつろぐセラピー犬を囲む子どもたちの姿に、その場は穏やかで温かい空気に包まれました。
午後には Children’s Aid Society of Toronto を訪問し、その中の Pape Adolescent Resource Centre (PARC) らとの交流を行いました。
ここでは、児童養護施設や里親家庭で育ったカナダの若者(ユース)たちと交流する機会を得ました。
子どもたちは、通訳を介したり、拙いながらも自分の英語で一生懸命に話しかけたりしながら、ユースたちとの対話を楽しんでいました。言葉の壁を越えてつながろうとする姿勢が、お互いの笑顔を引き出していました。
好きな音楽や学校での出来事など、他愛ない会話から自然に自分の境遇についての話へと展開していきました。
日本の児童養護施設で暮らす子どもたちは、成育歴を他人に “ましてや初対面の相手に“ 話すことはほとんどありません。年齢を重ねるにつれて、自分の過去に蓋をし、虐待の経験や施設で暮らしている事実を周囲に知られないように生活している子が多いのです。
それは自分を守るためであると同時に、「話したところで結局は“可哀想な子”と思われるだけ」という半ば”諦めの気持ち”が背景にあります。
しかし、この場では違いました。
互いの話を真剣な眼差しで聞き、深くうなずき合う。
ひとりが語り終えると、自然に次の人が口を開く。
そんな対話の輪が広がっていきました。
1日たくさんの学びと想いを抱えた子どもたちは早めに寮に戻り、
その夜には、翌日の “Japan Night” で日本の文化を披露するため、海士町伝統民謡「キンニャモニャ」の踊りの練習を行いました。音楽に合わせてダンスを覚える子どもたちの姿には、照れながらも確かな団結が表れていました。
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3日目は、暮らしの場から学びを深めました。滞在している大学寮を案内していただき、大学の図書館に目を輝かせる子どもたちの表情が印象的でした。
その後、Native Child & Family Services of Torontoを訪問し、先住民の子どもや家庭を対象とした福祉サービス、先住民の歴史と現在の取り組みについて、静かに、しかし真剣に学ばせていただきました。
午後に社会養護下にある若者(ユース)と家族を中心に支援をしている団体 STEP STONEへ移動すると、子どもたちとユースは、通訳なしに自分たちだけで、スポーツを介してコミュニケーションを図りました。
サッカーやバレーボール、バスケットボールでの交流は、英語に自信がなくても彼らも視線やパス、ハイタッチで分かり合えることを学びました。
得点が入るたびに「ナイス!」が飛び交い、名前を呼び合う声が自然に増えていきました。手先が器用な子は、日本から持参した折り紙を取り出し、鶴や手裏剣をユースへ教えたり、日本のアニメが好きなユースへ紙にアニメキャラクターを描いて手渡したりしました。
英語が苦手だと言っていた子も「自分に出来ることはないかと考えたとき絵を描くことにした。喜んでもらえて嬉しかった」と語ります。
子どもたちは、自分の「好き」や「得意」が一つの言語になると気づいた一日になりました。
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この三日間で、いくつもの体験が積み重なりました。寮の受付で“Excuse me”と声をかけ、返ってきた笑顔にほっとする瞬間。有志で「朝ご飯隊」が結成され、翌朝の段取りを話し合い、みんなが過ごしやすくなるように、気づいた人が一歩先に動く姿が自然とみられ始めました。小さな積み重ねは、4日目のアドボカシーワークショップへと自然につながっていきます。
次回の記事では、4日目のワークショップから公聴会へと進み、どのように声が社会へ開かれていったのかお伝えいたします。
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