
悩みや困ったことがあるとき、身近な家族や友人、学校の先生などに相談する人は多いでしょう。しかし、人によっては身近な人だからこそ話しづらかったり、そもそも自分のことを人に話せないという人もいます。
そうした人にとって助けとなるのが、同じ経験を持つ人同士が支え合う「ピアサポート」です。悩みや生きづらさを抱えているとき、同じ経験を持つ人の言葉が大きな支えとなるのです。この記事では、そうしたピアサポートの活動内容や役割、課題について解説していきます。
ピアサポートとは?
ピアサポートとは、「仲間・対等者(peer)」と「支援(support)」を組み合わせた言葉で、同じ経験を持つ人同士が支え合うことを意味します。
活動内容は、病気や障害、複雑な家庭環境やトラウマなど、共通の経験をしてきた者同士が集まり、これまでの体験や心の内を打ち明けたり情報交換をしたりします。互いを知り、支え合うことで居場所や人とのつながりを生み出し、さらにピアサポートの活動を継続していくことで心身の健康を保ち、将来への希望を見出していくのです。
ピアサポートには、どんなグループがある?

ピアサポートは、NPO法人や一般社団法人などによって実施され、一般的に抱えている不安や悩みごとにグループに分かれて活動しています。具体的に、どのような悩みを抱えている人たちやグループがあるのか紹介します。
アルコール依存症
最も代表的なグループと言えるのが、アルコール依存症のピアサポートです。当事者の飲酒や断酒の経験を語り励まし合うとともに、医療や行政につなぐ役割としても行われています。
また、アルコール依存症の家族を持つ人を対象としたピアサポートグループも多く、それぞれの経験や情報を共有し、助け合うことを目的としています。
アルコール依存症の人がアルコールを断ち切るのは、決して簡単なことではありません。しかし、参加者たちは一歩を踏み出し、改善に向けて少しでも前に進みたいという思いで参加しているのです。
がん等の病気
がんサバイバーやその家族によるピアサポートも、アルコール依存症のグループと同じく多い取り組みです。ここでは、主に医療従事者とは異なる視点の感情面や生活面に寄り添う活動をしています。
「不安で眠れない」「再発が怖い」といった、医師たちには話しづらい当事者ならではの気持ちを互いに受け止め合うことで孤立を防ぎ、「悩んでいるのは自分だけじゃない」ことを知ることで不安を和らげたり、前を向くきっかけをつくったりします。
治療や家族との向き合い方、仕事との両立方法、入院生活や日常生活の工夫など、経験したからこそ分かる実体験を共有することが、心身を安定させ、「生きよう」という活力になるのです。
精神疾患
精神疾患のピアサポートでは、うつ病や統合失調症、発達障害など疾患別に活動することもあります。今の状況だけでなく、発症のきっかけや病気とうまく付き合っていく方法、失敗や成功の共有など経験に基づいて話をします。こうしたコミュニケーションが、病気への理解の深まりや不安の解消、回復への意欲向上を引き出します。
また、服薬や食事、日常生活や就労のことなども共有することで、精神の安定だけでなく社会復帰を目指して行くことも目的としています。
引きこもり
引きこもり経験者やその家族を支えるグループは、彼らが抱える不安や困難なことなどを共有し合う場です。
引きこもりから脱した方による経験(経緯・利用した制度・きっかけ等)を本人やご家族からそれぞれの視点で語ってもらうことで、ほかの方の回復の手助けとなることがあります。
活動は外に出られない当事者たちに向けてオンラインでも実施している場合があり、顔出し不要など話しやすい環境づくりが意識されています。
他者との関わりが少ない引きこもりの方にとっては、ピアサポートグループが唯一の居場所や他者との交流ができる場となっていることも少なくありません
子育て(育児ノイローゼなど)
育児中、もしくは子育て経験者同士のピアサポートでは、育児中の困難な経験や辛い経験、乗り越え方を語り合ったり利用できる制度や便利なアイテムを共有したりします。
また、流産・死産経験者、障がいや病気を持つ子どもを育てる親、親自身が障がいや病気を持っているといった、テーマ別に実施しているピアサポート活動もあります。
周りの親やお子さんと比べて落ち込んだり、医療従事者の言葉になかなか耳を傾けられず、現実を受け入れることができなかったりする人がいます。しかし、ピアサポートで話を聞いてもらうことにより「同じ経験者にしか分かってもらえない」という思いが救われる場合もあるのです。
子ども・幼少期のトラウマ
子どもも親や学校の先生、友だちに自分の悩みやつらい現状を打ち明けることができる子もいれば、そうでない子もいます。また、大人になっても幼少期のトラウマやつらい経験から抜け出せずにいる人もいます。
こうしたつらい経験(不登校、いじめ、虐待など複雑な家庭環境、病気、愛着障害等)を対象とするピアサポートも存在します。
不安や孤独を抱える子ども同士なら心を開いて話をすることができる場合もあり、互いを知ることで「自分は一人じゃない」「居場所がちゃんとある」と感じられるように導いていくのです。
また、「ピアサポートがきっかけで友だちができた」「何かに挑戦してみよう」と、トラウマになることを防ぐだけでなく、今後の希望へとつながることもあります。
ピアサポーターの役割

「ピアサポーター」とは、自分の経験を活かして同じ立場の仲間へ支援活動をする人のことを言います。資格は必要ありませんが、知識・技能の取得や活動の場を広げるために養成講座を受ける場合が多いです。
ここでは、参加者の回復のサポートをするピアサポーターにはどのような役割があるのかみていきましょう。
傾聴と共感
ピアサポーターが自分の経験を活かし仲間に共有することはもちろん大切ですが、まずは相手の話に耳を傾け、思いを理解しようとする姿勢が大切です。
人は抱えていたものを吐き出すだけでも、心が軽くなることがあります。しかしながら、その吐き出した自分の思いや経験に耳を傾けてもらえなかったり否定されたりすると、人生そのものを否定された気持ちになり、絶望感や話したことの後悔に苛まれます。
反対に、勇気を出して伝えたトラウマやつらい経験を受け止めて共感してくれる他者がいることで、安心感や自己肯定感を得られるようになります。そしてその経験が本来の自分らしさを取り戻すきっかけとなり、回復に向かう第一歩となるのです。
経験の共有
ピアサポートの良さは、上下関係がなくフラットな関係性であること。対等な関係性のなかで自分たちの経験を共有し合うことで「自分だけではない」という大きな安心感が得られます。
また、周りの家族や友人、相談員などに打ち明けにくい本音を語り合えることは、当事者の精神的な支えとなりストレスや孤独感の軽減にもつながります。他者の経験を聞くことで新たな気づきや今後のヒントも得られるかもしれません。
そこでまずピアサポーターが自分たちの経験を共有することで参加者のロールモデルとなります。そうすることで参加者たちは「自分も乗り越えられる」と、回復後の具体的なイメージが湧きやすくなるのです。
情報提供
回復や就労に役立つ制度や日常生活に取り入れられる情報の提供も、ピアサポーターの大切な役割です。
過去や辛い経験に塞ぎ込みがちだと新しい情報や正しい情報が入ってきません。また、自分から情報を収集することが困難な方もいるでしょう。そのような方々にとってピアサポート活動で共有される情報提供は、道を切り開くきっかけとなります。そして、目標ができ将来に希望や意欲が持てるようになるのです。
ピアサポーターは医療従事者など専門職ではないケースが多く、もし判断が難しい場合は行政や専門機関へつなぐ、橋渡し的な役割に切り替えることも大切な支援です。
ピアサポートの課題と解決策

ピアサポートはとても有意義なものですが、課題も多くあります。ここでは、ピアサポートの活動における課題と、それに対する解決策を考えていきます。
認知度の低さと団体の少なさ
ピアサポートの取り組みは、まだ発展途上で一般には広く知られておらず、教育機関や医療機関の認知度や理解も低い状況です。またピアサポートの活動に取り組む団体数も少なく、活動場所には限りがあるため、参加したくてもできないという人も多くいます。
そのため、活動団体・行政・医療機関等が連携することで支援ネットワークを強化し、教育現場や医療現場での啓発活動を推進していくことが欠かせません。また、子どもや若い世代に向けてオンラインでの活動や普及をすることも、アクセスしづらいといった課題の解消になるでしょう。
ピアサポーターの不足
ピアサポートの団体数が少ないことの原因のひとつに、ピアサポーターの慢性的な人材不足が挙げられます。担い手が少ないと団体数だけでなく、活動内容の質にも影響しかねません。継続的な研修・サポート体制も十分とは言えないため、ピアサポート活動そのものの持続性が大きな課題となっています。
ピアサポートを安心して行える仕組みづくりを行うには、まず研修制度や相談体制の整備が求められます。
また、ピアサポート活動の普及や福利厚生、環境など安定して働けるような条件の設定や提示があることが、ピアサポーターを増やすための重要な取り組みと言えるでしょう。
参加者の心理的な不安
ピアサポート活動に参加することのデメリットとして、人によっては過去のつらい記憶を思い出してしまい、余計につらくなってしまったり心身の不調を引き起こしてしまう可能性があることが挙げられます。
また、これまで人に話した経験がない方や、話を否定されてきた経験がある方にとっては、ハードルが高い場合もあります。
このように当事者同士の語り合いには癒しがある一方で、自分や人の痛みに触れることでトラウマが再燃したり、トラウマになるリスクもないとは言い切れません。
つらくなったら無理に継続する必要はなく、途中で退出したり回数を制限するなどの工夫や配慮が大切です。
まとめ
同じ経験を持つ仲間とつながりができることは、大きな安心感とこれからの生きる希望となります。
ピアサポートの特徴は、自分の心身の回復や自立だけではありません。特別な資格がなくても自分の経験によって誰かを支えられる、社会的に意義のある役割も果たします。
しかし、まだ多くの課題も残るピアサポートの活動は、誰もが安心してつながることのできる環境づくりが今後の鍵となります。人と人とが寄り添いながら、より良い関係性を育てていくためにも、今後ピアサポートの取り組みを広げていくことが求められるでしょう。
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