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子ども支援のカタチ
2025.12.19

「ソーシャルインクルージョン」とは?誰ひとり取り残さない社会の実現を目指して

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家庭環境、経済状況、発達特性、文化的背景などその理由はさまざまですが、社会には“孤立”や“孤独”を感じている子どもが想像している以上に存在します。その多くは大人に気づかれずにひとり悩み、時には苦しみ、助けを求めようとしてもなかなか声に出せない子どもたちです。

こうした現実があるなかで今、注目されているのが、誰ひとり取り残さない社会を目指す「ソーシャルインクルージョン(Social Inclusion)」の考え方です。

生まれ育つ環境に関わらず自分らしく社会に参加し、つながりのなかで成長できる社会をどのようにつくっていくのか。本記事では、子どもを軸にしたソーシャルインクルージョンについて、その意義とこれから取り組むべき方向性について考えていきます。

この記事を読むと分かること

ソーシャルインクルージョンとは?

はじめに、ソーシャルインクルージョンとはなにかを解説していきましょう。ここでは、①一般的な意味、②子ども福祉における意味、そしてよくソーシャルインクルージョンとともに耳にする③ノーマライゼーションにおける意味の3つに分けて解説していきます。

ソーシャルインクルージョンの意味

ソーシャルインクルージョンは「社会的包摂(ほうせつ)」という意味を持ち、世の中の誰ひとり取り残されることなく、社会のなかに取り込む仕組みや考え方を言います。

社会的弱者と呼ばれる立場の子どもや高齢者、障害者や外国籍の人も含め、すべての人が社会の一員として尊重され、参加できる状態を目指します。

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ソーシャルインクルージョンは、その反対の言葉を意味する「ソーシャルエクスクルージョン(社会的排除)」という言葉から生まれました。

きっかけは、1970年代のフランスに遡ります。当時、フランス国内では一部の人々が病気や障害、貧困や失業などの理由から社会的に排除されてしまったという事態が起きました。こうした状況を解決しようと「ソーシャルインクルージョン」という考えが生まれたのがはじまりと言われています。

日本では、2000年代以降に注目され始め、年数を重ねるごとにさまざまな企業や福祉分野、地域づくりにおいてソーシャルインクルージョンの考え方が重視されるようになってきました。しかし、まだその認知度は低く、実践するにあたって課題が多いのが現状です。

子ども福祉におけるソーシャルインクルージョン

子ども福祉におけるソーシャルインクルージョンの考え方は、すべての子どもが社会(家庭、学校、地域、医療等)から孤立せず、一人ひとりの個性や状況に合わせて支え合うことを目指すという考え方です。

子どもたちは生まれ育った環境や個性の違いによって、見える世界も感じる不安もさまざまです。それでも、どの子も「受け入れられたい」「つながりたい」という思いを心の奥に抱えています。そうした子どもたちの思いに寄り添い、誰もが居場所をなくさずにいられる社会をつくっていかなければなりません。

すべての子どもが健全に育つよう、一人も取りこぼすことなく利用可能な支援や福祉サービスを提供していく、そして障害のある子どもの教育や支援、経済的困窮にある子どもの支援、そのほか複雑な家庭環境や孤立など多様な背景を持つ子どもがともに学び、育つ機会の提供が求められます。

子どもを守り、本来の力を引き出していく

ソーシャルインクルージョンのもう一つの意義は、守るだけではなく子どもに積極的な社会参加を促し、子ども本来の力を引き出すことにあります。そうすることで子どもは「社会の一員」としての自覚が芽生え、自信や自己肯定感にもつながるのです。

こうした考え方や支援は、子どもの将来をより良いものにするだけでなく、貧困や虐待などの世代間連鎖を防ぐためにもつながります。

ノーマライゼーションとの違い

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ソーシャルインクルージョンと似た言葉でよく耳にするのが「ノーマライゼーション(Normalization)」です。どちらも「誰もが排除されずに社会で生きていけるようにする」という考え方ですが、焦点やアプローチが少し違います。

「ソーシャルインクルージョン」は、社会のあらゆる場面において人が孤立したり排除されたりせず、参加できる状態をつくる考え方です。「社会側を変える」ことに重点が置かれ、以下の3つのポイントがあります。

■ソーシャルインクルージョン(Social Inclusion)

  • 参加・貢献・つながりを広げる
  • 貧困、障害、外国ルーツ、性別、家庭環境などさまざまな背景を持つ人が対象
  • 社会全体で包み込み支えるイメージ

たとえば、 みんなが参加できる地域活動や学校づくり、偏見や差別を生みにくい環境改善などの取り組みが挙げられます。

一方で「ノーマライゼーション」は、障害があっても健常者と同じようにできるだけ「普通の生活」に近い暮らしができるようにする考え方で、以下のような点がポイントとして挙げられます。

■ノーマライゼーション(Normalization)

  • 日常生活、教育、労働などを“普通の社会”に近づける
  • 社会参加より「生活の質」や「日常のあり方」に焦点が当たる
  • 「分け隔てしない生活環境」の整備が中心

たとえば、 障害のある人が地域で暮らせるように支援したり、学校や施設を特別扱いしたりしない方向で整えていきます。

このように、対象となる人や考え方に違いがあり、子どもを支えるのは「ソーシャルインクルージョン」の考え方だと分かります。

子ども福祉におけるソーシャルインクルージョンの現状と課題

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日本では、子ども福祉におけるソーシャルインクルージョンの考え方や支援は、どのくらい進んでいるでしょうか。ここでは、子どもを取り巻く現場ごとの現状と課題を掘り起こしていきます。

教育現場

子どもたちにとって身近な教育現場では、子どもの発達特性や家庭環境、いじめなどへの理解と対応は進みつつあります。しかし、教師間で考え方に違いがある場合や、人材不足から学習や発達の遅れがある子どもたちに個別の対応をする余裕がないという現場も多く見られます。

反対に教師によって個別対応をされている子は、子どもたちの中で「配慮が必要な子=特別な子」という認識が強くなってしまいます。その結果、子どもにとっての「普通」から外れる子が排除されやすい構造になり、いじめや孤立につながりやすくなってしまいます。

こうした子どもの認識を変えていくことも教育現場の課題ではありますが、なかなか意識や手が回らないというのが現状です。

行政や福祉現場

ソーシャルインクルージョンを実践するには、行政や福祉現場の力が欠かせません。しかし実際は、支援制度の不足や慢性的な人材と財源の不足が見られます。そのため、支援を受けられない子どもが出てきたり、子ども一人当たりに対する支援が不十分になったりしてしまうのです。

さらに各部署や現場が独立してしまう縦割り構造も課題となっており、連携して柔軟な対応をすることができないケースもあります。そうすると対応が遅れたり、連携すればできるはずの支援ができなかったりするのです。

なかには全体像が見えないまま似たような取り組みが重複したり、逆に必要な支援が抜け落ちたりする可能性もあります。

地域・その他

ソーシャルインクルージョンには、地域住民の理解と協力も必要です。しかし、地域によっては住民同士の関係の希薄化が見られ、貧困や虐待などの家庭環境や子どもの不安・SOSが見えにくいことが多いのが現状です。

また、子どもの孤立や複雑な家庭環境に気づいていても「他人事」としてとらえ、見て見ぬふりをしたり、発達の遅れがある子どもへの偏見などもないとは言えません。

こうした背景がより一層子どもが声を上げにくい状況を生み出してしまっています。そのほかにも、ソーシャルインクルージョンの実践を担う地域住民の高齢化や、ボランティア・民間団体の不足も問題となっています。

子どものソーシャルインクルージョンを実現するために私たちができること

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すべての子どものソーシャルインクルージョンを実現するために、まず小さなことでも私たちができることを実践していくことが重要です。具体的に何から始めればよいのか解説していきます。

大人の意識改革

子どもに対するソーシャルインクルージョンを実現するためには、まず周りの大人が意識を変えていく必要があります。

ソーシャルインクルージョンは、子どもを社会の一員として受け入れ、過ごしやすい社会をつくっていくことにあります。そのためには子どもがどのような特性をもっていても、そしてどのような環境下にいたとしても、偏見や特別視することなく関わりを持たなければなりません。

その第一歩として、子ども自身や子どもの特性を「弱いもの」ではなく「個性」や「多様性」として受け入れることが大切です。その姿勢はやがて子どもたちにも伝わり、子ども同士の関係にも良い影響をもたらすはずです。

“普通”を押し付けない、できないことを責めない、困っている子に手を差し伸べる、誰一人として同じ人はいない、こうした考え方が気づきにつながります。

そして気づきから行動に移すことができれば、ソーシャルインクルージョンの流れができるのです。

子ども主体の実践

ソーシャルインクルージョンは、社会や大人が子どもを”包み込む”というイメージが強いかもしれません。それも間違いではありませんが、子ども自身が主体となって意思決定や行動ができる構造がなければ、真の意味でのソーシャルインクルージョンにはなりません。そのため、学校や地域において子ども主体の活動を積極的に取り入れていくことが求められます。

たとえば、子どもたち自身で発信や活動するイベントやプロジェクトの実施、物事を決めるにあたって子ども中心の会議を行うなど、子どもたちにしか分からない困りごとや、子どもだからこそ出てくるアイデアが、実際の生活や支援に役立つことがあるでしょう。

そして、子どもたち同士で考え話し合うことで、子どもに社会の一員であることを自覚させるとともに「自分には価値がある」「居場所がある」と感じてもらうこともできます。

大人側も、子ども主体の活動を見守ることで年齢に関わらず意見を軽視しないことを学べ、意識改革にもつながるのです。

まとめ

ソーシャルインクルージョンは、子どもたち一人ひとりの背景や違いを受け止め、誰もが取り残されない社会を目指す大切な考え方です。子どもたちが「自分も社会の一員だ」と実感できることは、健やかな成長に欠かせません。そのためには違いを尊重し合い、誰もが自然に参加できる環境を広げていくことが大切です。

不安や孤立を抱える子が、安心して「ここにいていい」と思える社会を育てるため、私たち大人が子どもの視点に寄り添い、小さな配慮と理解を積み重ねていくことが欠かせません。

社会全体で包み込む空気を育むことこそ、インクルーシブな未来への第一歩となり、未来の子どもたちにとって大きな支えになるでしょう。

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