
児童相談所に寄せられる児童虐待の相談件数は年々高い水準で推移しており、もはや家庭だけでの問題ではなく、社会全体の課題となってきています。そのなかには「気づいていれば防ぐことができたかもしれない」事例が少なくありません。
児童虐待を受ける子どもたちはどのような状況に置かれているのか、その一方で私たちには何が見えていて何が見えていないのか。本記事では児童虐待の定義と背景、さらに最新の動向や現状を通して、支援の必要性と社会に求められる役割について解説します。
虐待の定義とは

「児童虐待防止法」において、虐待とは“保護者が監護する児童に対して行う、子どもの心身の健全な成長を妨げる行為”と定義しています。
しかしながら、すべてのこどもは「児童の権利に関する条約」の精神にのっとり、適切な養育を受け、健やかな成長・発達や自立が図られることが保障されています。この権利を守るためにも、まずは具体的にどのような虐待があるのか、その実態を整理していきます。
| 身体的虐待 | 殴る、蹴る、叩く、激しく揺さぶる、火傷を負わせる、溺れさせる、首を絞める、拘束する等 |
| ネグレクト | 家に閉じ込める、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、食事を与えない(与えられない)、病院に連れて行かない(連れていけない) |
| 性的虐待 | 子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触るまたは触らせる、ポルノグラフィの被写体にする |
| 心理的虐待 | 言葉による脅し、無視、兄弟・姉妹間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力を振る |
身体的虐待
児童虐待と聞いて真っ先に思い浮かび、周りが発見しやすいのがこの「身体的虐待」かもしれません。身体的虐待とは、子どもの身体に外傷が生じるまたは生じるおそれのある暴力行為をいいます。心身ともに長く影響が残りやすく、将来トラウマ化する可能性が高い虐待です。
ネグレクト
「ネグレクト」は、保護者が必要な養育を行わず、子どもの生活や健康を脅かす状態をいいます。経済的な問題や家庭環境など、さまざまな事情や要因なども考えられますが、ネグレクトによってつらい思いをしたり、支援につながらず助からなかった子どもが後を絶ちません。
性的虐待
「性的虐待」は、子どもを性的な対象として扱う行為をいいます。子どもにとって身体的にも心理的にも深い苦痛を負う暴力であり、同時に声を挙げづらいのが性的虐待です。
また、幼い頃は自分がされていることが「性的虐待」だとは分からず、また外からも気づかれにくいため発見されにくいという特徴もあります。
心理的虐待
「心理的虐待」は、子どもの心を傷つけ精神的な苦痛を与える行為のことをいいます。虐待のなかでも、第三者から見て「これは虐待」だとはっきりと判断するのは難しいことが多い行為です。
また、身体的虐待や性的虐待のように直接的に体に触れるようなものではありませんが、身体的・性的虐待は心理的に大きな影響を及ぼすことから、すべての虐待行為は、心理的虐待を伴うということができます。
児童虐待の現状
次に、厚生労働省が発表した「福祉行政報告例」とこども家庭庁の資料をもとに、児童虐待の現状(令和5年度、最新)についてみていきましょう。
参考:こども家庭庁|令和5年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数
虐待(通報)件数

全国233箇所の児童相談所における令和5年度の児童虐待相談対応件数は、225,509件にものぼります。令和4年度と比較すると10,666件も増加しており、被害を受けている子どもが後を絶ちません。また、平成24年度から一度も減ることはなく、増加し続けている点も見逃せません。
さらにこの件数はあくまで児童相談所が相談を受け、援助方針会議等の結果、児童虐待と判断して指導や措置等を行った件数になります。つまり、”表面化していないもの”を含めればさらに多いのが、児童虐待の現状です。
相談のあった虐待件数が増加していることは、社会の児童虐待防止の意識が高まり、関係機関からの通告が増えていることの表れとも言えます。しかし、支援につながっていない件数も含め、全国における児童虐待は確実に増加傾向にあることは否めません。
虐待の種類

児童相談所に寄せられた相談、通告で最も多い虐待の種類は心理的虐待で、全体の59.8%を占めています。次いで身体的虐待が22.9%、ネグレクト16.2%、性的虐待1.1%と続きます。
平成24年は身体的虐待がもっとも多かったですが、平成25年度以降は一貫して心理的虐待が最も多い虐待として報告されています。
虐待者・被虐待児童
虐待者は「実母」が最も多く(48.7%)、同じくらい「実父」による虐待(42.3%)も報告されています。実の両親による虐待が多いのが現状です。
そのほかには、義理の父や母による虐待を受けている子どもも少なからず存在します。被虐待児童について0歳から15歳まで見てみると、最も少ないのが15歳の10,054件、最も多いのが3歳の14,423件と、10,000件を超えています。
高校生になる16歳からは、16歳が8,957件、17歳が7,455件、18歳が960件となっています。義務教育を終え自立していくことができるようになってくると少し件数が減っていく傾向にありますが、それでも多くの子どもたちが犠牲になっている現状に変わりはありません。
虐待発覚の経路

児童相談所に寄せられた児童虐待の相談経路は、「警察」が最も多く51.7%です。この結果は、警察官が発見し通告した件数だけではなく、近隣住民などが児童虐待を児童相談所ではなく警察に連絡をしている場合も含まれています。
次いで近隣・知人が9.8%、家族・親戚が8.5%、学校が7.4%と続いています。
なぜ児童虐待が起こるのか

児童虐待が起こる背景には、さまざまな親の事情や家庭の環境が影響しています。虐待を引き起こす代表的な要因について以下に挙げてみます。
・保護者の孤立(育児に悩んだ時に気楽に相談できる相手がいない)
・子どもの特性による育てにくさ ※子どもに非があるわけではなく支援の不十分さが要因
・世代間連鎖(虐待者自身が幼少期に虐待を受けており「しつけ=暴力・放置」という認識)
・貧困
・保護者の依存症(アルコールや薬物、ギャンブル)
・ストレス(育児、経済面、仕事等)
・見守りや支援先の認知度不足
このように、児童虐待には多くのことが要因として考えられます。そのため、児童虐待の防止や早期発見・早期対応には、子どものケアだけではなく、保護者への気づきや介入も必要となってくるのです。
児童虐待防止に関わる機関

児童虐待に関わる重要な機関をご紹介します。もし周囲で児童虐待を見たり、起きている可能性を感じたりしたときに相談や連絡すべき機関です。子どもやその保護者たちを助けるためにも、ぜひ知っておいてほしい情報です。
児童相談所
児童虐待に関わる機関としてよく知られているのが「児童相談所」です。児童相談所は、子どもの安全確保により福祉を図り、その権利を擁護することを目的とした機関です。
子どもに関する家庭などからの相談に応じ、問題やニーズ、置かれた環境の状況等を的確に捉え、子ども自身や家庭に適切な援助を行います。
要保護児童対策地域協議会(こどもを守る地域ネットワーク)
「要保護児童対策地域協議会(こどもを守る地域ネットワーク)」では、子どもや保護者に関する情報交換や、支援内容の協議が行われます。そのため、虐待を受けている子どもや支援を必要としている家庭を早期発見し、適切な保護や支援を図る役割を担っています。
子ども家庭センター
「子ども家庭センター」は、すべての妊産婦、子育て世帯、子どもに対し、母子保健及び児童福祉に関する包括的な支援を行い、設置は市町村の努力義務となっています。
早い段階から切れ目のない継続的な支援を実施することを目的としており、子どもからの相談に応じることもできるため、児童虐待防止にもつながる機関と言えます。
もしも児童虐待を見たり、可能性を感じたら…児童虐待防止のための相談先・通報先一覧
最後に、児童虐待を防止するための相談先、通報先をご紹介します。相談は「虐待”かも”」の段階でも可能です。早期の判断が子どもたちを救うことにつながります。少しでも気になることがあれば、一度相談してみてください。
児童相談所虐待対応ダイヤル「189(イチハヤク)」
「189(イチハヤク)」に電話をかけると、児童相談所地域の児童相談所へつながります。直接最寄りの警察や児童相談所などに行くことがはばかれる場合は、まずは電話で相談してみましょう。相談、通告は匿名で行うことも可能で、自身や電話の内容に関する秘密は守られます。

こどもの人権110番
「こどもの人権110番」も、虐待を受けている子どもが相談できる専用相談電話で、最寄りの法務局につながります。
「こどもの人権110番」は虐待だけではなく、いじめや体罰、不適切な指導などの人権問題についても相談できます。家族や学校の先生に相談できない問題を、秘密厳守で解決に導いてくれます。大人でも相談可能なため、いざというときの連絡先のひとつに入れておくとよいでしょう。
親子のための相談LINE
「親子のための相談LINE」は、子育てや親子関係に悩んだ当事者たち(子ども・保護者ともに)が相談できる窓口です。
匿名、秘密減厳守で相談することができるため、身近に親子関係に悩む大人や子どもがいたら助言をしてあげられるよう、支援先のひとつとして知っておくと安心です。

警察
令和5年度の児童虐待の相談経路として一番多かったのが「警察」であるように、明らかな虐待、深刻な状況であれば警察に連絡することも求められます。
警察に通報することは、決して簡単なことではありません。しかし、子どもの命を守るために、時には勇気を出して迅速な対応を心掛け協力を仰ぎましょう。
まとめ
児童虐待の相談件数は増加傾向にあり、早期発見と継続的な支援の重要性があらためて浮き彫りになっています。そして、子どもを守るためには専門機関だけでなく地域や学校をはじめ、周囲の大人一人ひとりが気づき、支援につなぐ存在になることが求められています。現状を正しく理解し、社会全体で支える仕組みづくりが必要です。
児童虐待の現状を知ることは、誰かを責めるためではなく、孤立を防ぐための第一歩にもなります。この記事がその一助となれば幸いです。
【参照】
こども家庭庁|児童虐待防止対策
厚生労働省|令和5年度福祉行政報告例(児童福祉関係の一部)の概況
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