
「子どもは守られる存在であると同時に、一人の権利の主体である」。この考え方を制度として支えてきたのが「児童福祉法」です。子どもの最善の利益を大切にするこの法律は、虐待や貧困、孤立といった課題が深刻化するなかで、どのような役割を果たしてきたのでしょうか。本記事では、児童福祉法の目的や仕組み、そして近年の改正の背景を通して、子どもを支える社会のあり方を考えます。
児童福祉法とは
児童福祉法とは福祉六法のひとつで、18歳未満の児童の福祉・権利を保障する法律として1947年に施行されました。子どもの権利条約の精神に基づき、子どもの権利を守るための責務を、国民や国、地方自治体にも課していることが特徴です。
児童福祉法では、すべての子どもが安全に暮らし心身ともに健やかに育成されるように、すべての児童の福祉を支援することが定められています。
また、虐待を受けている子どもや、そのおそれのある子どもたちの保護、発達に応じた教育と福祉の提供など、具体的な支援や権利についても明記されています。
【理念】すべての児童を平等に
児童福祉法は、以下の基本理念をもとに運用されています。
・すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない
・すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない
引用:デジタル庁 e-Gov法令検索|児童福祉法
このように、生まれた環境や家庭の事情、その他さまざまな環境に関わらず、どの子どもの人権も保護され平等に育成し、支援を届けることを基本方針としています。
【目的】権利を擁護し、児童虐待を防止
児童福祉法の現在の主な目的は「児童虐待の防止」と「子どもの権利擁護」です。
児童福祉法において、児童虐待は子どもの心身の成長や人格形成に重大な影響を与えるとともに、次世代の育成にも懸念を及ぼす行為とされています。そのため、虐待の禁止・防止や早期発見に関する国・地方公共団体の責務と、児童の保護および自立支援のための措置を定めることで、虐待防止と児童の権利擁護を目指しています。
【福祉】児童福祉法に基づく支援
子どもに関わるさまざまな福祉サービスは、児童福祉法を根拠として整備されています。ここでは、児童福祉施設と経済的支援(社会保障制度)に分けてそれぞれご紹介します。
児童福祉施設

児童福祉法第3章では「事業、養育里親及び養子縁組里親並びに施設」について定めており、児童に加え親の支援も含まれるほか、障害児支援についても施設・制度の根拠となっています。施設や事業に関して各都道府県や市町村ができること、そして以下のような児童福祉施設の目的についても明記されています。
・助産施設
・乳児院
・保育所
・幼保連携型認定こども園
・母子生活支援施設
・児童厚生施設
・児童養護施設
・障害児入所施設
・児童発達支援センター
・児童心理治療施設
・児童自立支援施設
・児童家庭支援センター
・放課後等デイサービス 等
経済的支援(社会保障制度)

児童福祉法を根拠とする経済的支援(社会保障制度)には、次のようなものがあります。
・小児慢性特定疾病医療費
・障害児通所給付費
・特例障害児通所給付費及び高額障害児通所給付費
・肢体不自由児通所医療費
・障害児入所給付費
・障害児入所医療費
保護者から届け出があった都道府県や市町村は、障害児の通所・入所や医療にかかる費用を法令で定めるところにより支給するとされています。
制定の背景とこれまでの改正の流れ

児童福祉法制定の背景には、戦後の困難な環境に置かれた子どもたちの生活が関係しています。戦後の混乱で親を失った子、貧困に苦しむ子など生活に苦しむ多くの子どもたちや家庭が急増。そうした状況から“社会全体で子どもたちを守ろう”という意識が強くなり、法による支えが必要不可欠であると判断され、国や自治体が支援をする仕組みが議論、確立されました。
その後、時代の変化とともに、児童福祉法は子どもを取り巻く状況や問題、時代の変化や社会課題に対し柔軟に対応するかたちで、必要に応じて改正が行われてきました。
1997年
・児童福祉施設の名称や機能の見直し
・放課後児童健全育成事業の法定化
・児童家庭相談支援センターの創設
2001年
・保育士資格の法定化等
・主任児童委員を法定化
2004年
・要保護児童対策地域協議会の設置
・里親の権限の明確化
2008年
・小規模住居型児童養育事業(ファミリーホーム)創設
・児童養護施設等内の虐待防止
2010年
・障害児に関する定義や施設、支援の明確化
2016年
・児童養育の推進と市町村等の役割
・児童相談所の体制強化
・親子関係再構築支援
・児童の自立支援の継続・拡大
・障害児に関する支援の拡大
2017年
・虐待者の指導への司法関与
戦後間もない混乱期には、児童福祉法は「孤児救済」「貧困対策」「保護中心」に重きが置かれていました。しかし時代が進み、児童福祉法の主題は「権利保障・予防・家庭支援重視」へと変化し、その後「障害児支援」や「児童の自立」に焦点が当てられていきます。
そして、2016年頃から「児童虐待」が社会問題として深刻化していく状況から、本格的に対策の強化や支援が導入される体制へと変化してきました。このように改正の流れをたどることで、児童福祉法が時代とともに柔軟に対応し、“守る”だけではなく“支える”という視点でも進化し続けてきたことがわかります。
なかでも、2022年(令和4年)6月に施行された改正では、その後の児童福祉法による支援において大きな転換期となる、重要な改正が導入されました。具体的にどのように改正されたのか、詳しく見ていきましょう。
児童だけではなく、家庭支援へ|2022年(令和4年)6月の改正

子育て世帯に対する包括的な支援のための体制強化及び事業の拡充
第一に注目される点として、子育て世帯への支援強化と事業拡充が挙げられます。市区町村は「こども家庭センターの設置」や、身近な子育て支援の場(保育所等)における相談機関の整備に努めることが明記されました。
こども家庭センターは、すべての妊産婦・子育て世帯・子どもの包括的な支援をおこなう施設で、支援を要する子どもや妊産婦等への支援計画を作成します。今まで連携不足が課題となっていた子育て世代包括支援センターと子ども家庭総合支援拠点を合わせ、相談から支援プランづくりまでを一か所で行うことで体制強化と事業拡充を図ります。
また、訪問による家事支援、児童の居場所づくりの支援、親子関係の形成の支援等を行う事業がそれぞれ新設されました。
そのほかにも児童発達支援センターが障害児支援の中核的役割を担うことが明確化され、児童発達支援の類型の一元化が図られるなど、包括的に子育て世帯への支援体制の環境整備が進められることになりました。
社会的養護下にいる児童および妊産婦への支援の向上
保護者から適切な養育を受けていない子どもや、困難を抱える妊産婦への支援向上のため、一時保護施設の設備・運営基準を策定して一時保護施設の環境改善を図ります。
また、児童相談所による支援の強化として、民間との協働による親子再統合の事業の実施や、里親支援センターを児童福祉施設として位置づける等の改正が行われました。
困難を抱える妊産婦には一時的な住居や食事提供、その後の養育等に係る情報提供等を行う事業を創設しています。
社会的養護下の児童への自立支援の強化
これまで児童養護施設等の児童は原則18歳になると退所(自立)することが定められていましたが、実際は18歳から住居や収入を確保することは難しく、個人の状況によっては自立が困難なケースも少なくありません。
そこで、年齢による一律の利用制限を状況に応じて柔軟に対応することが定められ、社会的養育経験者等を支援する拠点を設置する事業を創設するなど、退所後や18歳以降でも安心して社会に出る環境を整えることとしました。
そのほか、障害児入所施設の入所児童等が地域生活等へ移行する際の調整の責任主体を明確化するとともに、22歳までの入所継続を可能としています。
【関連記事】「ケアリーバー」とは?児童養護施設を離れたその後に直面する課題とアフターフォローの実態
児童の意見聴取等の仕組みの整備
2017年の改正では、「虐待者の指導への司法関与」が施行されるなど、近年深刻な社会問題になっている児童虐待に関する対応も強化されています。虐待も含めたなんらかの事情により保護者と暮らすことができず、児童相談所などに入所措置される子どもでも、最善の利益が考慮されなければなりません。
そこで児童相談所等は、入所措置や一時保護等の際に児童の最善の利益を考慮しつつ、児童の意見聴取等の措置を講ずることとしました。各都道府県に対しても、児童の意見・意向表明や権利擁護に向けた必要な環境整備を行うよう記されています。
一時保護判断への司法審査の導入
児童相談所が一時保護を開始する際に、 親権者等が同意した場合等を除き、 事前または保護開始から7日以内に裁判官に一時保護状を請求する等の手続を設けることとしました。
これにより、保護の適正性の確認及び透明性の確保が可能となり、保護者が反論の機会なく長期的に子どもと引き離されることを防ぎ、子どもの権利擁護にもつながります。
子ども家庭福祉の専門性の向上
児童福祉・子育て支援の現場では、保育士やソーシャルワーカーなどの専門職が複雑なケースに対応する必要があるにも関わらず、専門性の不足や支援のばらつきが生じてしまうなどの課題がありました。
そこで、児童福祉司の任用要件に「虐待を受けた児童の保護等の専門的な対応を要する事項について十分な知識・技術を有する者」を新たに追加し、一定水準の支援を提供できるようにしました。
児童をわいせつ行為から守る環境整備等
子どもを性犯罪から守るための取り組みとして、教育・保育に携わる仕事に就く人の性犯罪歴を確認できるようにする「日本版DBS制度」の導入が進められています。
それに先駆け、性犯罪歴がある場合の保育士の資格管理の厳格化を行うとともに、ベビーシッター等に対する事業停止命令等の情報の公表や共有を可能としました。これにより、子どもだけでなく保護者にとっても安心できる環境が整いつつあります。
児童を支える環境を整備|2025年(令和7年)4月の改正内容

直近では2025年(令和7年)にも改正が行われました。主な改正内容は、保育に関わる人材確保のための整備や虐待への対応強化に関するものとなっています。
保育士・保育所支援センターの法定化
いつの時代も保育に関わる人材の確保は大きな課題です。そのため、“潜在保育士”の再就職に関する相談や就職あっせん、求人情報の提供等を行う「保育士・保育所支援センター」を法定化し、保育士確保のための規定を整備しました。
そして、センターにおける都道府県の役割を、保育業務への関心を高めるための広報、保育士の復職支援や継続して就業できる環境・助言を行うための必要な体制の整備を行うこととしました。
保育の体制の整備にかかる特例の一般制度化
保育士が特に不足する地域において、国家戦略特別区域に限り認められている「地域限定保育士制度」を一般制度化しました。
地域限定保育士試験に合格すると、登録した都道府県等においてのみ保育士と同様に業務を行うことができます。加えて、登録後3年を経過し一定の勤務経験がある場合には、通常の保育士として当該都道府県等以外でも業務を行うことを可能としています。
また、子どもの保育の選択肢を広げる観点から、3〜5歳児のみを対象とした小規模保育事業(通常0〜2歳を対象)を全国展開することとしました。
虐待対応の強化
まず、保育所等の職員による虐待に関する通報義務等を創設し、子どもや保護者が安心して保育所を利用できるような環境整備をしていくこととしました。
続いて、一時保護委託についての登録制度を創設し、一時保護を適正に行うことができる者として都道府県知事の登録を受けた者及び児童福祉施設、里親等を可能としています。さらに当該登録を受けた者をこども性暴力防止法の学校設置者等として位置付けています。
また、児童虐待を行った保護者と児童との面会についても改正が加えられています。これまでは児童虐待を行った保護者についてのみ面会および通信の制限を行っており、一時保護中の虐待が行われた”疑いのある”児童への面会は制限していませんでした。
しかし、児童の心身に有害な影響を及ぼすおそれが大きいと認められる場合には、児童相談所は保護者の同意がなくとも面会等を制限できるように改正されました。同時に児童の心理的影響を考慮し、面会や通信について児童への意見聴取等措置の実施対象にも加えています。
まとめ
児童福祉法は、時代の変化や子どもを取り巻く課題に応じて改正を重ねてきました。制度を知ることは子どもの置かれている状況を理解し、社会の課題に気づくことにもつながります。
子どもが「守られる存在」から「尊重される存在」へ。児童福祉法は、その転換を支える重要な役割を担っています。法律の理念を「言葉」で終わらせず、実際の支援につなげていくことこそが、今後の大きな課題といえるでしょう。
【参照】
厚生労働省|児童福祉法の目的・理念(その1)
厚生労働省|児童福祉法・児童虐待防止法の目的・理念
こども家庭庁|令和4年6月に成立した改正児童福祉法について
こども家庭庁|令和4年改正児童福祉法の概要
こども家庭庁|令和7年4月に成立した改正児童福祉法について(児童虐待防止対策関係)
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